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満月の夜だけの-6-



 カカシは上忍待機所に顔を出したあと、早速受付に向かった。人の出入りで開いては閉じ、閉じては開く扉の手前で多少躊躇したあと中に入ると、だだっ広い部屋の一番奥に据えられた横長い机の一箇所に、イルカはいた。ピンと伸ばした背筋、きっちり結われた髪は清楚で、任務の依頼書を捌く表情は真剣である。昨夜の情欲に満ちたひとときが嘘のように、対話する相手にみせる笑顔はさわやかだ。
(そう……、うそだ)
 あぁ、あれはやはり偽物の彼なのだと思い知らされるカカシである。
 朝のうちは混雑する位置にカカシは並んだ。無論、イルカの前に続く列である。自分に割り当てられた依頼は此処にはない。此処で任務の概要を受け取る予定がないにも関わらず、カカシは自分の番が来るまで辛抱強く待った。一人減り、二人減り、イルカとの間に立つ人数が少なくなるにつけ、二人の距離も確実に近付いていく。腰掛けた姿勢で机上と人の顔を交互に視線を移すイルカには、カカシの姿が疾うに視界にある筈だった。それより前に気配を殺さず室内に入ったのだから、その瞬間から気付いて然るべき。しかしイルカはの眼は一度もカカシを見なかった。
 カカシの手の内側が冷汗で湿る。もしやイルカは無視を決め込むつもりだろうかと疑心を抱き、いいや公衆の面前で節度が服を着た彼がそんなことはできないだろうとも考えていると、イルカとの間にいた最後の一人が回れ右をしてカカシの前から退いた。カカシは一歩前に出た。イルカは言った。
「次の方、どうぞ」
 それは抑揚もあり普段となんら変わらぬハキハキした声だった。果たしてそれがあのようなことをした自分に向けられるものかとカカシが訝るくらい自然でもあった。
「あの、イルカ先生……」
 すみません。ごめんなさい。いくらなんでもあれはやりすぎでした。
 謝罪、反省、後悔をひっくるめて告げる予定のセリフはイルカの声と重なった。
「次の方、どうぞ」
 イルカは目線を落としたまま手元の紙束を手繰る。
「いや俺は……」
 仕事の用ではなく、謝りにきたのである。カカシはイルカが書類を持つ手のすぐ傍らに両手をつき身を乗り出した。
 イルカ先生、と名を呼ぶが、返ってきたのはまた、次の方どうぞという職務に徹する声だった。イルカは立ち上がり依頼書の一番上をひらりと翻すと、カカシの後ろに立つ男の方に向けてさしだした。
「え? 俺?」
 カカシの真後ろで、名も知らぬ中忍が自分の面を指差している。
「はい、細波さん、麓の国まででしたね、よろしくお願いします」 
 細波とやらが、カカシの脇から手を伸ばして依頼書を受け取った。イルカはペコリと頭を垂れ、それからどうぞお気をつけてとニッコリ笑んだ。細波がいってきます、と踵を返すのを見送ると、またも、はい次の方、とカカシを越えた後ろに声をかける。目の前にいるカカシの姿がまるで視野にないように。存在すらないように。
「俺とは……もう口もききたかぁないってことですか?」
 カカシは微かな苛立ちを覚え、それは声音に滲んで手元に落ちた。イルカはカカシの発言はなかったように依頼書をパラパラと捲り、はい次の方と再びカカシの脇から後ろの者に声をかけた。
「おい、イルカ……、はたけ上忍が……」
 イルカの右隣の同僚が、イルカの肘をつつくのが見えた。イルカはそれを軽く抑えはしたが、目線は変わらずカカシを避けている。
 カカシは唖然と立ち尽くす。恥をかかされていることはどうでもいいが、完全に無視をされているショックはとてつもなくでかい。こんな態度をとられる原因が自分にあるとしても、あんまりではなかろうかと恨むあてもないのに何かを恨みたい一心にかられ、もう前に踏み出しイルカに詰め寄ることも、後ろに退くこともできずに暫しやっと立っていた。ぐらつきそうな足元は突如背後からの強引な力に引かれて後ろに退いた。身体は腹で二つに内側に折れ、脱力した自分の四肢が反物のようにベラベラと靡くのが視界に入る。イルカの姿は見る間に小さく遠のいていく。
――あぁ、終わったな。 
 イルカは二度とカカシに笑いかけはしないだろう。
 満月の夜以外。



 今日は満月の夜だから、イルカはカカシの部屋の戸を叩く。潤んだ瞳で、熱い息で、抱いて欲しいとカカシに願う。
 床に脱ぎ捨てられる衣服をカカシは蹴散らし、その日も自ら全裸になったイルカを浴室に押し込めた。そしてやや乱暴と言えなくもない強引さで湯船につけた。イルカは文句の一つも言わない。あとから僅かな隙間に脚を入れ、イルカの身体を上向きに、下から掬うように抱きしめても抵抗しなかった。
 泡立てた湯の中で、洗うという名目で全身に手を這わす。耳から首筋、胸も腹も腿の内側から足の趾先まで撫で上げた。滑らかな筋の隆起、硬めの脂肪層。弾力は女性のそれとは異なり決して柔らかくはないのだが、肌理は細かく熱を含み、密着するカカシの皮膚感覚を煽る。カカシはつのる欲情のまま、背後から耳朶を甘噛みする。首筋を吸う。そうしながら指先は忙しなく、余裕もなく、イルカのそこかしこを探り続ける。臍部をつつき、脇下で遊び、胸で戯れ指先で転がすのにちょうどよい粒を双方同時に丸く擦過した。
 イルカは女性のように、いやそれ以上にそこは感じるらしく、カカシの指の腹が掠めただけでも身体を震わせた。触れるほどにそれは尖り、ピンと前に突き出ていく。色は紅く熟れているのに、摘まれるのをよしとしない青い果実のようにコリコリとした芯をもっていく。平らな胸ごと掌で押し潰し、開いた指でかき寄せふるわせると、カカシの指の狭間で乳首はもう石粒のように硬かった。捕らえやすく育った突起を親指と人差し指で強く挟みあげ、グリグリと回すように何度も捻る。イルカは背中をしならせ顎をあげ、アッ、アッ、とカカシの指の動きに合わせて啼いた。
「ちくび、感じるの?」
 わかっていたが尋ねると、イルカは恥ずかしそうに僅かに顎を引いて頷いた。カカシは素直な応えを可愛いと感じ、いっそうイルカに快感を与えるために熱心に捏ねた。イルカのけぞる背骨が胸を突き上げる。愛撫を強請るような仕草に見えた。浴室では過剰に響くイルカの喘ぎは、耳から入り股間に伝わった。脈打つ自身が先走る。逸る雄が湯の中に淫汁を垂れ流すのをカカシは自覚した。
 イルカもカカシに触れられるうち、既に膨らんでいた身体の芯を更に屹立させていた。仰向けに抱かれた姿勢の彼は、湯面を埋める泡の狭間から丸い先端を時折覗かせる。溺れるようにカカシの腕の中で愛撫に身を委ねていたのに、露出する陰茎に気付いたイルカは耳まで朱に染め、勃起した状態を隠すため、そこが湯の中に沈むよう腰を下に退こうとしたようだった。
 けれどイルカが腰を落とした水深にはカカシの情欲があった。イルカが浮力に抗うと臀部の谷間にカカシの亀頭が幾度も擦れる。その感触もたまらずに、カカシは下からイルカをいっそう強く抱きしめた。抱きしめながら窄みに猛りを押しつける。頑なな秘部は前回の快楽を覚えているのか、ヒクヒクと蠢いた。
 やっとひと月前の続きができる。その嬉しさに冷静を欠きそうな頭をカカシは振った。今度は時間を前よりももっと費やして、自分を受け入れてくる場所をほぐすのだ。風呂に入れたのもそのためだった。身体を温めれば促される血行は、緊張を解き筋肉の弛緩を幾らかでも助ける筈だ。
 カカシはゆるゆるとイルカの臀部をさすり優しく肉を揉み、徐々に内側に閉じた窄まりへと指を這わせていった。幾度もなぞり、指先をほんの僅かだけ潜り込ませて自分が入るための入り口をこしらえていく。イルカは細い指の小さな抜き差しだけで腰を捩る。後頭部をカカシの肩に押しつけ甘えるような仕草で、腕は浴槽の左右にしがみつき、捩れる腰をその場に留めようと努力をしているようだった。カカシの興を削がないための気遣いなのか、それともカカシの愛撫から逃げ尻を浮かせば、湯面にいやでも己の欲望が突き出てしまうのを避けるためか。
 カカシはどちらでもよかったが。
 指を出し入れする度に、湯の中でグブ、クプン、と淫らな気泡が立った。イルカは息を荒げ内蔵の奥深くまで侵そうとするカカシの上で尻をくねらせる。カカシの指は既に暴き知ったイルカの泣き所を探り、押し上げ、突き上げている。最初は柔軟に、だんだん激しく掻き回すように刺激すると、イルカはそこを圧される性感に打ち震え、もう勃起した自分自身が泡を弾かんばかりに湯面を突き破り液体を掻いているのを、隠そうとする恥じらいや正気は保てぬようだった。
 カカシの動きに合わせた不規則なリズムで、イルカの桃色に染まる亀頭が白い泡粒の波間に繰り返し見え隠れする。奥を探る指を二本に増やし、洞穴からグチャグチャとぬかるむ音が立つほどかき混ぜる。イルカは覗かせた雄芯の先から射精にも似た勢いで淫液を一滴ピュッと飛ばし、カカシの眼を楽しませた。一度零した淫汁はあとは止めどもなくなったらしい。イルカは指に侵されながら、おぼつかなげに上下に腰を揺すりつつ、尿道から絶えず淫媚な汁をタラタラと流し出す。
 こんなに感じやすくいやらしい身体であったのか。カカシの脳裏を実直で清楚な普段のイルカが掠め、その差異に陶酔した。イルカの下半身はより深くカカシの指を食おうと上下に弾みはじめていた。そうして愛撫を誘いつつ、片手は己の陰茎を扱きはじめてしまう。
「待って……イルカ先生、一緒にいきたいから……」
 自慰を掌を重ねて留めると、イルカは首を捻りカカシを仰いできた。
「だっ……って、も……我慢できな……」
 潤んだ眼で訴えられ、イルカのはち切れそうな雄の猛り具合を直に触って確かめた。カチカチの陰茎とともにその下の袋も裂けそうに張っている。
「じゃ、こうしててあげるから……」
 カカシは指で輪をこしらえイルカの根元をギュウッと締め上げた。
「あっ、あ、なっ……」
「ほら、出ないように……」
 ヒッとイルカの声帯がひきつける。
「やっだっ、あっ……カ……だめっ……」
「だめじゃないから……がまんして」
 イルカの暴発しそうな道筋を完全に堰き止めると、カカシは弛んだイルカの後孔に自分のものをあてがった。
「そんで、俺ので感じて、いって……今夜こそ……」
 最初の切っ先をイルカの中に埋めた。イルカは指とは差がある質量にハァハァと苦しそうに喘ぐ。その肺を宥めるように胸をまさぐりながら、カカシは少しずつ腰を揺すり奥へと侵入する。くびれが入り口の筋肉にキリキリと締め付けられ、カカシの方が暴発しそうな峠をやり過ごすのに必死になった。浴槽に湯がバシャリと派手に波打つほどイルカは身を捩る。
「あっ、あっ、カ……カシさ……い、いた……」
「ごめん……ごめんなさいっ」
 熟れきりとろけるように弛緩していた筈のイルカの中は、やはりいざカカシが分け入ろうとするとひどく狭くて堅い場所だった。イルカが苦しいと同じくらい、カカシも苦しい。包皮が裏返るかと思うくらいきつい摩擦を味わった。
「あ、くっ……力抜いてっ……指の時と同じくらい、リラックスして」
「ぁっ、あっ、くるしっ……」
 カカシは辛そうなイルカの目尻に涙が滲んでいくのを知りながら、それでも今夜こそはちゃんとイルカと一つになりたくて腰を揺すった。ズブズブと強引に穿つ雄芯にイルカは弓のようにのけぞった。元までやっとの思いで埋めきってからも、イルカの腸壁はギュギュウ窄んでカカシを潰さんばかりに狭窄する。
「くぅっ、……あ、ぁ、イルカ先生、もっとゆるめて……」
 カカシの願いは聞き入れられることはなかった。イルカは顎をあげカカシに背を預け、下から串刺され、なおかつ自身を握った淫らな姿でカカシをキリキリに締め上げビクン、ビクンと痙攣した。
「あっ、あっ、ふっ……あぁっ――っ」
 イルカを堰き止めていた筈のカカシの指は戒めを持続する余裕を無くし、精を解いていた。幹を震わせイルカの小さな穴がピクンピクンと断続的に開閉する。内側の紅い粘膜のその奥から白い粘液を噴いていく。射精に収縮する襞に揉まれ、カカシは自分で注挿する間もなく逐情した。


2005.11.16



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