| それはカカシにとっては、なによりの誕生日のプレゼントだった。ずっと欲しくて仕方のなかったもの。焦がれても手に入らなかったものだ。 カカシは最初の口付けをイルカに落とした。 初めて触れた唇の柔らかさに戦き即座に離すと、イルカは睫毛を震わせ瞼を下ろした。両の頬を掌で覆う。むずがるように動いた首を固定する。頬を捕らえた手を下顎に移し上向かせ、頬の赤味を寄せた自分の頬に伝わる熱で感じ取る。 合わせるだけの口付けから優しい啄みに変え、だんだん激しく吸い上げる。イルカの唇はされるがままに愛撫を受けている。舌で僅かな隙間を横に撫で、歯列に触れる。いつも笑顔の合間に覗く大きめの白い前歯だ。それもこじ開けるように舌で突き、生じた僅かな隙間から粘膜に触れにいく。濡れた舌を探り引き出すと、イルカの鼻孔からフゥッと苦しげな息が抜ける。それからは、おずおずとだが、イルカの方から舌を差しだしてきた。 深く絡め合い貪るうちに、呼吸を乱したイルカの背が微かに浮いた。カカシはシーツと背筋の間に腕を差し込み、いっそう近くにイルカの身体を抱き寄せる。イルカの皮膚はほのかに汗ばんでいて、それをカカシのアンダーシャツが吸う。湿る布が邪魔くさい。袖を引き襟から首を抜き、半身を晒す。肌に肌を重ね、顎を噛み、項に顔を埋めてイルカの体臭を大きく吸い込んだ。 指と舌で鎖骨の窪みを味わい、その下へと愛撫をずらす。胸の粒を指の腹で撫でると腰が捩れ、イルカの喉から微かな声が洩れる。そこは想像していたよりも感じやすい急所のようだった。 指も使い寄せるように揉んだ皮肉ごと口中に頬張った。甘く噛み、強く吸う。舌で転がし指先で持ち上げる。キリキリと摘むように弄っていると、下の方でイルカは雄芯の先をブルリと震わせた。 「ここ、気持ちいい? 感じるの?」 聞かずとも判ることを聞きながら、カカシは淡い乳輪をクルリと丸く辿り、勃ちあがり充血した乳首を舌先で押し潰す。イルカは荒く息を吐きつつ答えなかった。けれど代弁するように内股を捩り合わせ、滾ったものをどうしていいかわからぬというようにカカシの腿に押しつけている。カカシは布越しに汗とは異なる湿りを感じとった。唇で乳首の愛撫を休めぬままに、そちらに掌を伸ばすと、指先にはぬめった雫の感触がつく。カカシは急くまま性器を包み射精を促しにいく。クチュン、クチュンと水っぽい音をさせて包皮が上へ下へとずれ擦れ、イルカの欲は一段と硬いしこりとなりカカシの下で腹につくほど反った。あと数度扱けば暴発しそうなそれにキュッと力を込めた時、カカシの肩にイルカの吐息が小さな嗚咽のようにぶつかった。まさか泣き出したのかと顔をあげると、イルカは羞恥に頬を染めたまま、首を横に振っている。 「一度楽になった方がいいですよ。……だめ?」 問うとイルカは不安げな眼で訴えてきた。 「俺は、どうすれば……」 カカシは、嘆息し、悟る。脱ぎっぷりは良かったものの、イルカは同性とのこんな行為はきっと初めてなのだ。この人を抱く初めての男になれるという歓喜がカカシを満たす。同時に逸る衝動を抑えねばと己を叱咤した。 イルカが怯えぬように、ゆっくりと愛撫を再開しながら、あなたはなんにもしなくていい、と耳元に囁いた。抱かせてくれるだけで充分だった。 カカシの背中にイルカの腕がまわされていく。少し震える指が愛しい。カカシは抱く手に力を込めながら、イルカの熱い飛沫を掌に受けた。達する瞬間に名を呼ばれ、幸せな眩暈を感じて一瞬目の前が霞んでしまった。 白い粘液を息の整わないイルカの秘部にもっていく。草生えをよけ、柔らかく萎えた陰茎のその奥に塗り込める。イルカは身体は初でも知識では心得ているようで、カカシの動きを助けるように、僅かであったが腿を自ら外側に開いたようだった。カカシは微妙なその動きにのぼせあがり興奮するまま角度の変えられた膝裏を持ち上げ、グッと開いた脚の間に割り込んだ。慎ましく窄んだままでありながら、精液で濡らされた場所は淫靡な光景だった。指をあてがい、じわじわと撫で上げる。イルカは恥ずかしさのあまりか、淫らに広げられた下肢をわななかせ、手近にあった枕に顔を押しつけていた。 怪我をさせぬように慎重に進めるカカシの指は、入り口の強張る筋肉に幾度も押し戻された。やっと人差し指を関節一つ分は潜り込ませたが、襞は硬く、内壁を愛撫しようにも、動かせるほどは開かない。イルカは奥歯を噛みしめ受け入れようとはしているらしいが、かなり痛そうだった。汗腺は昂揚によりも痛みに開いたようで、熱いはずの体から、冷たい汗を吹き出している。 滑りが足りないか、とゲル状の潤滑剤を垂らしてほぐしにかかった。が、ドロドロに濡らしても一本の指を出し入れするのがやっとである。イルカもそのつもりでいるというのに、肝心な場所が幻術にかかる前のイルカの心のように頑なだ。 カカシは俄に焦る。猛る自身が股間ではちきれそうだ。イルカを抱ける悦びのあまり局所の昂ぶりが半端ではない。脈打つたびに漏れそうだった。 小さく注挿を繰り返すうち、イルカはだいぶ感覚に慣れたのか、ひどい痛みはなくなったようで、そうなると羞恥に頬を染めながら喉から甘さの混じる喘ぎを洩らすようになったのだ。そんな声を聞きながらそれ以上は進めないもどかしさ。焦らされているのと同じことである。 「あっ……んっ、くっ……ぁあっ……んっ、も……だ」 カカシはイルカの誘うような声を聞きながら、取り憑かれたように秘部を愛撫し続けた。楔のように張りつめた雄を持て余し、堪え、それはもう辛抱強く、長いこと。 限界は不意にやってきた。ようやく増やすことのできた二本の指でイルカの深い場所を探り当て、蠢かせ、身悶える姿を眺めているうちにそれはきた。 愛しい人の苦痛と性感に歪む目元、唇を噛む前歯、泣きそうに潤んだ瞳。そして悲鳴。 「カカシさんっ、カカシさ……」 自分の名を繰り返し押し出す喉仏。肺の動きに合わせて上下する、腫れたままの胸の尖り。弓のようにしなやかに反り上がる背。捩れる腰。震える膝頭。全てがカカシが夢想していたよりも扇情的で、蠱惑的だった。 「カカシさん、俺、も……いいですっ、も、入れてっ」 「でも、まだきつい……これじゃ」 「……だって……俺……また」 いってしまう、と泣き出すイルカの芯にカカシは口付けた。 「いいですよ。いきたくなったら我慢しないで」 言葉で許し、指で促すと、腿から足先まで張りつめた。イルカが二度目の頂きを越える。それを見届けながら、 (っ……うそっ) カカシは視覚で弾けていた。 夢精で濡らしたようにあっけなかった。 そう思うのは、カカシの下が着衣のままだったからだろう。気を取り直して再び挑むために、イルカに覆い被さった。今度はいそいそ腰回りを外しながら。 口付けるつもりでイルカの頬を挟み、カカシは惚けた。イルカは目を閉じぐったりとしていて動かない。 果てた直後である。気を失うほど気持ちの良い射精だったのかもしれない。 カカシは気付けのつもりでイルカの頬を軽く叩いて呼びかけたが、返事はない。イルカの顔は安らかだった。とても穏やかな寝息を立てていた。 (……ま、いーか) 何も機会は今夜だけではない。イルカは今日から自分の恋人になったのだ。明日か明後日か、週末でもいい。これからはいつでもイルカをこの手に抱けるのだ。 焦ることはないと言い聞かせ、イルカの身体をタオルで拭い後始末をした。それから暴発で汚れた下半身を洗うために、シャワーを浴びた。 ベッドに戻るとイルカは全裸のまま毛布にくるまり、変わらず静かに眠りこけていた。 男であるカカシが、この同じ男のアカデミー教師に恋心を抱くようになってから、随分になる。 気は優しくて、真面目で照れ屋で頑固。正義感が強い。子供が好きでラーメンが好き。笑顔が可愛い。 話をすれば聞き上手だが、他人の不幸話にはとことん弱い。如何様な者も見捨てることができずに、お人好しのレッテルを張られている。 それからイルカにはとても困った欠点がある。怒りも喜びも哀しみも隠せないのだ。感情のままに生きていたら、それは忍ではありえなかった。情にほだされやすい忍者など、カカシの周囲にはいなかった。そんなイルカと何度か酒を呑むうちに、独り占めしたいと思うようになった。 見下ろすイルカの髪は、カカシに乱され枕辺に散っていた。 思えば髪を散らした姿も、カカシは視るのは初めてだった。他人に厳しく、自分にも厳しいイルカは、ふだん着衣どころか頭髪の乱れも許さない。 明日の寝起きはどんな感じだろう。初めて二人で迎える朝の食事は、米の飯と味噌汁か、コーヒーとトーストか。 劇的でも、大満足でもなかったが、初夜は初夜。そして今日から両思いの恋人だ。幸福という二文字を抱いてカカシはイルカの隣りに横になった。 頭上で微かに揺らめいたカーテンの向こうでは、満月がいまだ明るすぎる白々とした光りを地上に注いでいた。 |