| カカシは狸に化かされたような心地でイルカを見下ろしていた。イルカはいったい今ごろになって何を言い出すのだろう。今更感覚が否めず、イルカの身体をマジマジと見つめてしまう。性器は従順に反応し、カカシを呑んだままの後孔は潤んだままカカシ自身を呼吸に合わせた微かなリズムで揉んでいた。 「なんだ、それなら、俺にされたってよかったわけじゃない。俺と寝たって……」 イルカは卑猥な場所をカカシにあけわたし、性器を勃てていながら、顔色だけ青ざめていた。 「だって、あなたは男の身体がいいわけじゃないっ」 「そらそうだけど、イルカ先生なら、男でいいし」 カカシの本心である。べつに殊更男が好きではないが、どちらでもかまわないのだ。好きになったのが男のイルカなら、男でも抱きたいと思うのが自然だ。 「俺はいやです。あなただけは……いやだった」 きつい口調で拒絶の言葉を吐かれて、カカシは落胆する。 「俺も男でしょ。俺だけ駄目って、ぜんぜんわかんないよそれ」 「あなたは、他の誰ともちがうっ」 「そりゃ、そうでしょ。俺は俺でしょ。他のなにもんでもないでしょ」 カカシはイルカの言いたいことがまったくもってわからない。いや解りたくないのかもしれない。カカシさんはカカシさんだから、と言われても、はぁそうだろね、と応える他はない。あなたは特別なんです、と言われれば、特別嫌いかよ、と不貞腐れたくなった。 「それ、俺だけ特別嫌いってことですか?」 そう聞けば、ちがうと首を振られてますますイルカの言い分が意味不明であった。埒のあかない問答に焦れる。 「好きな人がいるってのは、ほんと?」 月輝に言われ引っかかっていたことを訊ねてみる。イルカはだいぶ筋肉の弛緩具合は回復したようで、首をそれはもう強く横に振り、覆いかぶさるカカシの肩をのけんばかりに下から押してきた。 「いません。だれがそんなこと……」 「ふぅん、そう」 カカシは手を伸ばして、イルカの双眸から滲んでいた涙を拭った。行為に汗ばんだ湿りと混じってそれは温かかった。首筋から鎖骨、摘んだために赤く染まった乳首も指と掌で辿る。乳首が擦られた瞬間に、ピクンと顎があかり、口から短く溜息が出たようだった。そんな反応を可愛いとも思い、小面憎いとも思う。左胸の筋肉の下で、心臓がまだ少し早めの鼓動を打っていた。イルカにすれば、重い覚悟がいったのだろう異性が駄目という告白は、正常とは言えぬが時たま有る性癖で異端であるが無ではなく、カカシには軽すぎて怒りも笑いも出なかった。 「……なんでもいいや、もう。他の男とも……いいよ、したけりゃすればいい。イルカ先生が俺を許してくれないのは充分わかってるから、それも、もういい。同じ気持ちは求めない。もっと俺を恨んでいい。憎んでいいから……」 ――満月の夜だけは、俺にください。 「月が満ちる晩だけは、俺のものでいて?」 掠めるように唇に口付ける。イルカの心とは反する、その柔らかな感触にカカシこそ泣きたくなった。それはもう努力の上に我慢を重ねて優しくすることに徹した歳月が思い出されて虚しくなる。姑息な手段に出てイルカに睨まれるようになったことも、愚かに術に頼りその結果こんな状態に追い詰めたことも、カカシだっていくらなんでも反省したのだ。どれだけ後悔したか。謝罪が叶わぬならたった一つだけの関係には縋らせて欲しかった。顰めた瞼にも唇を這わせるが、イルカに答えはない。 「うんと言ってよ……」 うんと言われずとも、カカシは月の満ちる夜のイルカをきっと抱く。それでも少しだけでもイルカの譲歩が欲しくなっていた。哀願するように切実に心を込めて告げたのに、イルカは息苦しそうに喘いだ口で詰ってきた。 「俺が頷かなくたって、どうせ、いいようにするくせにっ。もうっ……。そんなこと言うなら、それなら、俺に、俺の尊敬してたカカシさんも返してくださいっ!」 感情のままに吐かれたのだろう。その言葉は、女が駄目と聞いた瞬間よりも、カカシを吃驚させた。 イルカの見開いた両眼の中で、瞳がひどく揺れている。自分で言ったことを、わかっているのかいないのか。熱っぽくそれでいて哀しげに見返され、色気に生唾を呑み、強情さには舌を巻き、朧気だがイルカの思いの片鱗に触れたような気がした。 「……それって、セックス抜きの俺がいいってことですか?」 訊くと、イルカは縦に頷いた。 唖然とした。カカシの感覚ではイルカの思いは理解しがたいことだった。プラトニックな関係を完全に保てるはたけカカシなら、イルカは付き合っていたいと言いたいのだ。たぶん。 「もしかして……」 月輝はイルカに想い人がいると言った。アスマはイルカもカカシを好きなのではと言った。もう一人、イルカに会わせろと五代目に直談判に行ったカカシに、口添えをしてくれたのは火影の付き人のシズネであった。シズネはイルカが好きだから、イルカには好きな人と幸せになって欲しい、と言った。 ――幸せにできるのは、はたけ上忍ですよね。 今回のことも、カカシに任せるのが一番だと強く言い切ってくれた。それでこの地下室に入れてもらえることになったのだ。 月輝の勘も、アスマやシズネの思い込みも、すべてイルカの言動や所作のもたらす認識であるならば、イルカは自分をもしかしたら嫌っていないのだ。複数の眼から、そう判断されている。むしろ、肉欲抜きなら好かれていることになる。 (……無理) そんな間柄を保つのは、カカシには無理難題だった。 「イルカ先生、あんな俺は本当の俺じゃありません。ずっと猫かぶってたんですよ。言ったでしょ、我慢してたんだって。幻でも視てたと思って忘れなさい。ふだんの俺は、我儘だし、やらしいし男だよ。こういうことをする俺がいやだってんなら、俺はしかたないと割り切るよ」 互いの相容れない部分に、カカシは言い知れないジレンマを感じながら嫌気が差していた。 もう疾うに真面目に諦めている。イルカを押し倒すのは容易でも、なるほど落とすのは難しい。好きだけれどカカシとってこんな途方もない考えの持ち主なら手に負えない。愛していても、なんとしても通じないなら、妥協しあえないなら、どうしようもないだろう。 「お、おれは、わりきれてないっ」 イルカが言う。涙混じりに抗議されても、カカシには応えようがなかった。それこそ話し合っても無駄。口説く以前の問題のような気がしたので、他にやることは限定された。カカシは肉欲を思う存分満たすことにして、イルカの膝裏を掬い上げた。 「うっ、もうっ、……かんべんしてくださいっ」 イルカの叫ぶ声は無視してそのぬかるんだ場所に、カカシは熱く凝った性器を再び深く押し込めた。イルカの頬は奥を抉るとたちまち発火したように肌に赤み取り戻した。一度枷が外れてしまえばひどく快楽に弱いのは、すべてが幻術の効力でもなかったのかとカカシは悟る。 乱暴に打ち付けてもきつい粘膜はその都度柔らかく受け入れる。応えるように収縮する。身体に拒否反応がないということは、つまりそういうことだ。この身体はよほど同性に犯されたがっていたのだろう。 イルカのこの初なくせに貪婪な後孔は、カカシ自身が最初にほぐしたのだった。それだけは自慢で救いかと、まっさらな身体に刻んだ感覚が、より深く染み込むように熱心に愛撫する。この先誰と交わろうが、イルカの性の愉悦は自分が教えてやったのだ。 口では拒むが、身体はうねらせ悶えるイルカをいっそういたぶった。カカシはイルカの身体が思うよりも男の征服に堪えられ、しかも鋭敏で邪なことは素直に喜んでいる。幻術に限られてしまった逢瀬以外に、臨時に抱けるこの機会はもうないのだろうから、とことん貪欲に楽しむ方がいい。もっとも、両手両足の枷と輸液の管が邪魔で、思う存分というわけにはいかずに焦れる部分もあった。 それでも思い切り腰を浮かせ、抱えた脛を甘噛んだ。繋がる場所に指先を忍ばせる。卑猥に伸びては縮む後孔の縁は、淫液と汗でしとどに濡れ、柔らかに弛んでいて、撫でさすると雄芯の他にカカシの指まで吸い込みそうだった。裂けそうに開いた縁をグルリと擦る。 「やらしー穴、いっぱいに開いてるここっ、……袋まで、硬くなってきた」 手ごたえと感触を言葉にすると、イルカは耳朶まで燃える様な真紅に染めた。哀れなほど紅潮し、全身の皮膚に熱い汗を纏いつつ。 張り詰めた双球をもっと転がしてみる。どこもかしこもいいのか、イルカは首を打ち振るい、足の爪先を痙攣させ、腕はカカシにしがみ付いて来た。二度と素のイルカを抱けないと思うと、弾みでも、偶然でも、回された腕が嬉しくてならなかった。 互いに呼吸が急いてきた。胸の一部、心臓の辺りが皮膚を介さず鷲掴みにされたように苦しくなってカカシもイルカを強く抱いた。 突き崩すような注挿を繰り返す。カカシ自身がイルカの淫汁でグチャグチャにぬめっていて、押し込めるのも抜き去る瞬間もこの上なく気持ちが良い。きっとどこの女よりも男よりも、イルカのそこはカカシを苛む名器であった。 イルカの陰茎もカカシが揺する度に、これ以上行き場もないのに硬く反り返って喘ぎに波打つ腹を叩く。ヒタヒタと腹筋を打ちながら、雄の矜持が先から染み出、窪みに溜まった粘液は止められようもないのかピチャッ、ピチャッと不規則な雨垂れのように撒き散らされる。 陥落してしまえば存外に、堪え性のない性器だ。尿道を掘られるサディスチックな刺激も喜んだ竿は、男にならどんなことをされても良いのだろう。その厭らしさを懲らしめるように、膨れあがったものの根元を指で締め上げる。そのまま、後孔の奥にある一番感じる筈のしこりをグイグイ突いてやった。 「うっ、んんっ、そ、こっ……やだっ、あっ」 「ここ? わかってますよ……いやなんじゃないんだ。すごくいいんでしょう、ほらっ」 「あっ! あぁっ!」 粘液で濡れたカカシの亀頭の先が、ねっとりとした弾力に弾かれ押し戻される。また押し込める。 もうやめて欲しい、とイルカは強姦の被害者のように泣き叫ぶ。だがその声は愉悦に酔っているのがまるわかりの喘ぎにしかもう聞こえない。扱くほどに肉色の粘膜でできた小孔がビクンビクンと開いて濁った汁を溢れさせていく。それをなお堰き止めてカカシは後ろを攻め立てた。押し込んでは抜く毎に、イルカの狭い洞穴は潤みを一段と増しながら、ギリギリとカカシを締めつけて痛いほどの摩擦をくれた。 それでもいやだと啼くのは、性欲に溺れるのを嫌悪するゆえか。 「はなし、てっ……たすけっ…もっ、あぁっ、やめっ…とめ…てっ」 「とまんないっ……」 止められるものかこの快感を。イルカが性に没頭するのを嫌がる心裏がカカシはひとつも理解できない。 「……こんなにいいんだから……、あんたも、ただ感じて、楽しめばいい」 荒くなる息の中、教え込むように言い聞かせる。己の欲望が染み付くように左右に腰を捻って会陰同士を擦り付ける。深い場所を強く抉る。平手で打ったような音がパシンと下半身で鳴った。カカシの腿がイルカの尻の肉を叩くほど侵しきっていたのだ。 熟した果実がはじけるように極限はきた。緩めた指の隙間からこぼれるように、イルカは亀頭をブルリと震わせた。言葉で否定してもイルカの欲望の証は解放を待ちわびていたように勢い散っていく。 カカシはイルカの名を呼びながら、イルカは最後までカカシを詰りながら噴き上げていた。 カカシは思う存分注ぎきり、やっと欲情が遂げられた満足感で最高、と感嘆の声を上げていた。余韻に浸るカカシを他所に、イルカは言った。 最悪だ、と。 |