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「それで……ええとウミノくん、あのー」
イルカが荷物を開けるのを眺めてきながら、店長は言いよどむ。
「はい?」
顔をあげて聞き返すと、ちらと眼がそらされた。
「前の人がどうして交代したくなったのか、知ってる?」
イルカは隠す必要もないので正直に言った。
「あいつは接客苦手らしくて。あと客層に彼の好みの女性がいなかったとか言ってましたけど……くだらない理由で続かなくてすみません」
「あぁ、そうだろうね」
店長は納得した様子で頷いたあと、きみは大丈夫? と心配げに聞いてきた。
「接客なら得意とまでは言いませんが、嫌いじゃないですよ。俺、里で任務の受付所の手伝いを時々してますから、言葉遣いとかはお客さんに失礼のないように……」
「いや、そうじゃなくて、客層のことなんだけど」
「……と、言いますと?」
「どんな人達でも平気?」
「はぁ、ガラ悪い輩でも来るんですか? なんならおっぱらいますよ」
イルカは荷物の隅に忍ばせてあった忍具一式からクナイを一本取り出した。ヒュンと利き手で翻してみせる。すると店長は少しだけ身を退いて首をプルプルと横に振る。
「ないない、それは。ゆすりや地上げ屋の退治なら、最初から依頼に含めるよ」
「なんだ、違うんですか。客層なんかどうでも、任務に関係ありません」
そう、任務なのだから。
客に美人がいようがいまいが構わなかったし、綺麗な女性がいたから、だからどうだと言うのだ。イルカは任務の最中に色気づいた出会いなど求めていない。仕事で目の保養を期待するのも間違っている。目下、イルカは女性どころではないのである。恋愛に現を抜かしている暇はない。
「じゃあ、良かった。あと、きみさー、髪、下ろすといいと思うんだけど」
なぜかひっつめて頭の後ろでくくられている髪を指差される。イルカの黒髪は肩まである。飲食業なら衛生面を考え、髪はきちんと結んだ方が良いはずだ、と思わぬでもなかったが、依頼人の言うことだ、素直に聞くことにした。髪紐を解いたら、わーいいね、と喜色ばんだ反応をされた。
「その方が、ずっと印象柔らかい」
「見たくれ関係あったんですか? 条件は性別と年齢だけしか聞いてませんが。必要なら、ご要望の容姿に変化してます」
「いやいや、こだわりはないんだけどね、一応商売だから、パッと見た感じ、こうなんというか、親しみやすさ重視なんだよね。それとその鼻のとこの傷も、申し訳ないんだけど、できればなんとかならないかな」
今度は顔の傷を指差される。イルカには鼻を横切るかなり大きな傷跡があった。客の印象を問うならば、一般人相手の店では髪型よりこちらの方が問題だったろう。一見、物騒と言えば物騒だ。
忍の里では珍しくない傷のために、イルカはメイクのセットを渡されてしまった。塗りたくれば隠せるのだろう肌色のクリームやら固形のファンデーションを一通り眺めた後、使い方がわかないので洗面所に放置した。
傷を隠すくらい、チャクラで何とでもできたのだ。
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