| 足音がした。一生懸命走っていると知れる、力強く地を蹴る音だ。子供の頃のように夢中でがむしゃらで一途な足音はカカシの部屋の前でピタリと止まった。 カカシは掌で弄んでいた石の塊を、ベストのホルダーに押し込んだ。ツメから渡されたイルカの犬笛だ。子供の頭部がくぐる長さの紐がついている。作りかけの忍具と、それを作るために並べていた刃物は、サラシ毎一気に纏め、納戸に押しこんだ。 施錠を合鍵で解かれた瞬間、カカシは終わりだな、と咄嗟に呟き、同時に今度こそ、終りにする、と決めた。 パックンに見抜かれた通り、カカシは決断を己に急かしつつ、時間がかかる手段を選択した。確実性を重視もせず、さして時間にも挑もうとしなかった。ツメの話を聞いた時、解決策はもう一つ暗に受け取っていたのに。 手段は二つ並んでいた。 ツメが促したのは、犬という種を溺愛するがゆえの一つ目だ。彼女の叱咤と激励の前に裏は存在した。おそらくカカシはやらないだろうと踏んでの二つ目の策が。 ユキを穏やかに黄泉へと送りたい。ツメの気持ちはもっともだったし、カカシもできればそうしたかった。 忠義で一途な犬を殺したくはない。一途なゆえに怨霊と化しただけなのに。 もっとも、殺傷するという表現は間違っている。彼女は疾うに死んでいる。この世のものではないから死とは違う。それでも滲んでくる罪悪が拭えない。 カカシは自分の潔くない性根に苦渋の笑みが出る。けれどもう長くはもたない。現のイルカも失いたくない。 カカシの煮え切らなさを飛ばすような勢いで二重扉の内側が大きく開く。来客の黒髪は少し乱れてところどころがほつれている。額宛の下に細かな汗をかいている。それを伸ばした掌で拭ってやる。そんなことでも言葉もなく赤面する男は、ふだんの教師然とした威厳や生真面目さが失せ、いらっしゃい、と言ったカカシに、明朗な応答などできなくなっている。 「あの……」 「はい?」 「分身ですか? それとも……」 昨夜と同じような会話の返事に、昨夜と同様に本体です、と返す。それも他に分身を放っていないチャクラも体力も精力さえまるまる一人分だとは、あえて説明はしなかった。 肢体の線を確認するように、カカシのアンダーシャツ姿を上から下までをイルカの視線が舐めるように動いた。欲望が顕な潤んだ眼をしていた。瞳の周囲が微かに赤みを帯びている。今にも舌なめずりしそうな口元は少し開いているのに、きっと高揚するばかりなのだろう声もない。手を取ると素直に引かれる。促してやると恥じらいながらもあとを着いて来る。 カカシの手を待ちきれずイルカは自分のベスト剥ぎ、額宛も取り去った。喉に、胸に、掻き毟るように這わす指は足掻くように関節が強張り、それでも衣服を一枚、また一枚床に落としていく。 人間らしい過程も順序もおおかた省かれてしまった。唇を奪われ、床に縫い付けられたのはカカシの方で、乱れるままに上衣をたくし上げられ、下衣を探られる。衣服越しに絡んでくる手足を上から撫でて落ち着くよう宥めるが、イルカの四肢はめちゃくちゃに見境なく絡みつき、剥がすのが困難だった。自然二つの身体は床の上でもつれ合う。 硬いフローリングに押し付けられたまま、カカシは少しずつイルカの勢いから退くように移動した。全身をまさぐられながら、やっと廊下から居間、居間から寝室へと移動した頃には、カカシもイルカも汗ばんでいた。 薄明かりだけの寝室で、汗に湿った着衣を剥がされる。イルカはいよいよ大胆に手でカカシの身体をまさぐってくる。剥き身になる肌のそこかしに次々に舌を這わせてくる。まるで飢えて餌を前にした獣のようでカカシは食われそうだな、と漠然と思った。 ベッドに押し倒されて背中が弾む間もなくイルカが上からのしかかってくる。首筋に顔を埋められる。口唇が開閉しながらカカシの肌を辿る。舌で撫でられ、歯で扱かれる皮膚は、触れられる毎にカカシの本能を揺さぶるがそれでもまだ理性はかなり働いていた。 愛撫にいっこうに昂ぶらないカカシに、イルカは自棄のように自分の陰茎を押し付けはじめる。同じように興奮して欲しいのだろう、怒張した肉を擦りつけてくる。そうしているうちに間もなくイルカの芯は飽和状態になり、一度目の絶頂を迎えてしまった。 |