要らない贈り物



 誕生日に要らないものをもらった。
 もらってもイルカが困るだけの言葉だった。
「好きです。愛してます」
 カカシが言う。
 耳を疑った。
「抱かせて下さい」
 胸が悪くなった。
 漠然と思う。銀色の髪の上忍は男で、イルカも男だ。
 イルカは知っている。男同士でのセックスで受け身の側がどこをどうされるのか。
 抱かせてくれとはつまり、カカシが自分にそういうことをしたいのだろう。
 そういう眼で視ていたのかと、カカシが今……もしかしたら常に、想像している自分の衣類の下の素肌に鳥肌が立つ。
 その寒気に似た皮膚感覚が、すべて怖気でもないことに、イルカは耐えられなかった。
「考えられません、そんなこと」
 分かれ道でもないのに、イルカは回れ右をした。そして駆けだした。
 今日のために、カカシが予約までしてくれた老舗の割烹料理が胃の中で踊り、不随の蠕動を無視した逆流が誘発され、それがイルカを苦しめた。
 吐き気をこらえて足を前に出す。まるで敵から逃れるように全速力で。
 悠長に立ち止まり、吐いてる暇はない。カカシが追ってくるから。
 気持ち悪いと詰ればカカシは追ってこないだろうか。独りにしてくれと怒鳴れば消えてくれるか。
 背後に迫ったカカシは、大丈夫ですか? 飲みすぎたんですか? 顔色悪いですよイルカ先生、と気遣ってくる。
 顔色が悪いのはあんたのせいだと文句を言おうにも、吐き気を堪えるのが精一杯だ。
「ねぇ、イルカ先生、走るのやめませんか?」
 星が綺麗ですよ、とカカシは後ろで天空を指差す。イルカは無視して右手の塀に跳躍し、それからその家の屋根に飛び乗った。
「……ゆっくり歩きませんか?」
「いやですっ!」
 即に背後に言い放つ。自分と同様に、けれどイルカより軽やかに音もなく屋根にあがった上忍をキッと睨んで、屋根から屋根に移った。
 すると後ろにいたと思っていたカカシは、イルカが移った屋根にいた。
 一瞬硬直する。
 身のこなしどころか、忍としてなにもかも自分の上をいく男を凝視する。力を行使されたらイルカは容易くねじ伏せられるのだろう。
 伸びてきた腕を叩く。パシンと無機質で乾いた音がした。カカシを打った反動で、足底が瓦屋根の一枚を微かに軋ませる。
 俺は諦めないですから、とカカシは笑った。
「……努力しますから。イルカ先生が友人以上に、俺を好いてくれるように」
 再び伸ばされた手が、腕が、瞬きする間でイルカをさらう。
「びっくりさせてごめんなさい。謝るから、だから今日のところはさ、星でも眺めながらのんびり歩きませんか」
 次の瞬間には、路上にいた。
 トンと肩を叩かれ、前へと押される。
 何気ない風を装ったが、左にいるカカシはイルカの右肩を抱いていた。誰かに視られたらどうするのだと、揺すった肩からカカシの腕は離れない。イルカは大股に踏み出し、離して下さいと頼む。
「酔っぱらい同士が肩を組んでるように見えないかな」
「見えようが、見えまいが、俺がいやだって言ってんですよ」
「嫌がられても、好きですよ。……大好き」
 繰り返される言葉の響きにイルカは紛れもない嫌悪と、それからどうにも折り合えない葛藤を覚えていた。
「あなたが、そういう趣味の人だとは知りませんでした」
 冷たく言い放つ。
「べつに俺はそういう趣味じゃありません。イルカ先生が男だろうと女だろうと、俺はイルカ先生がいい。それだけのことですよ」
 イルカはカカシを羨ましいと感じた。
 同性に恋をして、それを、それだけのことだといかにも自然なものとして言える素直さと気楽さと、割り切りの良さが羨ましく、そして疎ましい。
「……さわらないでください」
 カカシの腕をなお払う。
 さわって欲しくない。
 一緒にいて楽しい人でも、触れて欲しくない。
 自我の深淵に。醜く異質な本性に。



2006.05.27